2018年4月6日金曜日

Dizzy Dishes(ビン坊の料理人)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1930年8月9日
評価:★6

ベティ・ブープのデビュー作


この作品は、『Talkartoons』の第8作(第7作との説もあり)として1930年に公開された。作品自体の出来は水準作というレベルなのだが、現在ではアニメ史を語る上において外す事はできない短編となっている。
というのも、この(比較的平凡というべき)短編作品は、フライシャーが生んだ世紀のアイドル『ベティ・ブープ』のスクリーンデビュー作なのだ。

ストーリーはこの時期の他のフライシャー作品と同様、ほぼ無いと言っても良い。厨房で働くビン坊が、客のクレームに振り回されたりベティの歌声に聞き惚れる、といった具合である。
グリム・ナトウィックとテッド・シアーズが担当したアニメーションも、まさに典型的なトーキー初期のフライシャー・スタイルだ。少々グロテスクで野暮ったいギャグがテンポ良く繰り広げられ、理屈抜きに楽しいグニャグニャした動きが楽しめる。

物語中盤でいよいよベティのミュージカル・シーンが始まるのだが、筒井康隆氏が『ベティ・ブープ伝』で酷評しているように、この作品に登場する彼女の姿は現在の人間らしい彼女に見慣れた人々からすればかなり気味悪く映ってしまうだろう。声こそマギー・ヘインズによるハイトーン・ボイスなのだが、ずんぐりと太ってグネグネ動く、まさに犬のようなベティなのだ。
私はこれはこれで別の魅力があると思っている性分なのだが、『人間のベティちゃんが動く様子を見たい!』という方は1931年まで待たなければならない。

肝心のオチは、食べ物を待ちきれなくなった客がついにビン坊を襲い、恐れおののいたビン坊は机を切ってこしらえた機関車で店から逃げる、という代物である。まさにナンセンス。愉快で粗削りな作品だ。
この未熟なアニメーション技術特有のシュールさが良い方向に傾き、傑作となった『Mysterious Mose』や『Swing You Sinners!』(両作品とも1930年)と異なり、この作品ではそういった魅力はあまり感じられない。だが、やはりこの作品はアニメ史に残る記念碑的短編であり、ベティ作品を愛する者としては外す事のできない作品であるという事には変わりはないのである。
なぜなら、後にアニメ史を塗り替える名キャラクター、ベティ・ブープはこの作品から生まれたのだから。



※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.2

0 件のコメント:

コメントを投稿